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TITLE2023.10.09

木と伝統工芸 パースペクティブを訪ねる -前編-

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京都市中心部から北へ車で約60分。古くより京都を代表する木材供給地である右京区・京北の地で、工芸の新しい波が生まれています。循環型のものづくりを通じて、工芸素材としての森と人のより良い関係を築くプロジェクト「工藝の森」です。「一般社団法人パースペクティブ」の共同代表としてこのプロジェクトを運営するのは、明治42年創業の京都の漆屋「堤淺吉漆店」の4代目・堤卓也さんと、長らく京都の工芸を発信しつづけている高室幸子さんのおふたり。工藝の森の活動は? そこから思い描いている世界観とは? おふたりに話を伺うべく、京北を訪ねます。

■ものづくりの循環を再構築する

おふたりは2019年に一般社団法人パースペクティブを立ち上げ、工藝の森を運営されていますね。具体的にどのような取り組みなのでしょう?

―(高室)循環型ものづくりを目指して、モデルフォレストに漆の木を植樹したり、開放型のファブスペース「ファブビレッジ京北(以下FVK)」やウッドボード(木製サーフボード)工房を運営したり。これら3箇所を拠点に、様々な企画・プロジェクトを行っています。―

―(堤)ものづくりの循環というのは具体的には、まずは地域にある自然素材を使って、一つ一つ異なるそれらに作り手が向き合いながら、手を施していく。できたプロダクトが使い手のもとに届く。使い手は壊れたら修理をして長く使い続ける。それが産地としての地域や作り手にしっかり還元される、という流れのことです。こうした循環は、もともと工芸に備わっている要素ですが、今では多くの場合これが成り立っていません。もともと京都の街中にある堤淺吉漆店に加えて、京北という産地にも拠点をもつことで、その循環を再構築できればと思います。―

―(高室)例えばFVKには、地域産材を使ったものづくりができるシェア工房があります。木工初心者から木工のプロまでが活用できる工具・設備が揃うほか、専門性の異なる職人も3人所属しているので、プロの助けを借りながらそれぞれの制作を実践できます。工具の使用や職人サポートにはメンバー登録と予約が必要ですが、基本的にはいつでも見学OKで、オープンデイやワークショップも不定期に開催しています。―

■山の資源を無駄なく使う

FVKでは、地域産材の調達についても相談できるというのがユニークですね。

―(高室)そこはFVKの大事なポイントで、FVKを作りたいと思った動機のひとつでもあります。私たちはホームセンターで売っているような木材や高級品として流通している木材だけを素材として見ているわけではなく、山から出てくるものは全て資源だと考えています。色々なプレイヤーが参加して、それぞれの発想で色々な素材を使ったもの作りができれば、人と山との関わりが生まれて、資源も無駄なく使われるので、ものづくりの価値が山にもきちんと還元されるはず。大前提として、工芸というと厳選された素材を使って特別なものを作るイメージが強いですよね。個人的には、その概念を壊すというか、広げていきたいという思いが根底にあります。―

―(堤)京北とのつながりのなかで生まれたのが、熊が樹皮を剥ぎとった“クマ剥ぎ”材の活用です。京北エリアでも近年このクマ剥ぎ材が増えて問題になっています。クマ剥ぎにあった木は傷口から枯れていくので、山から切り出しても高くは売れず、林業家にとっては切り出すコストの方が高くつくほど。だからといってみんなが避けていたら、山に残されたものが倒木に繋がり、山が荒れてしまいます。そこで、僕らはクマ剥ぎ材を活用したものづくりを開拓し、材をできるだけ高く買い取れるように。そこに賛同いただいた京北の家具職人の吉田木工さんが先導役になり、林業家さんやクリエーターの方々とこの材を活用する「BEARS WOOD PROJECT」を2022年に立ち上げました。―

先ほどFVKで漆を塗られていた板も、クマ剥ぎ材だと仰っていましたね。

―(堤)そうなんです。床材に拭き漆をかけていました。堤淺吉漆店が来春、リニューアルオープンを予定していて。店舗の3階に敷き詰めるつもりです。ここ、わかりますか? 傷つけられた木は、新しい樹皮が傷を覆うように成長します。そうなったとき、見たことのない独特の木目が表れるんです。自然の逞しさや生命力を感じますよね。それを多くの方に伝えたくて、そういう箇所を床材ではできるだけ残していますし、今後も色々な活用の仕方があるんじゃないかと思います。

■植えることから始めよう

もともと高室さんは工芸コーディネイターとしての活動が長く、堤さんは漆屋の4代目。職種の異なるおふたりが共創することになったきっかけについて教えてください。

―(高室)2013年頃から京都から海外に向けて、伝統工芸の販売や教育プログラムを通して工芸を伝える仕事をしていました。多くの作り手や産地を訪ねるなかで、物そのものより、それを支える細かい網の目のような文脈の方に興味が湧いていったんです。というのも、伝統工芸の現場では、一握りの職人さんが国内外で成功するという華やかな世界がある一方で、材料や道具を支える方々が技術継承や材料不足などでものすごく苦労している実情もあります。これまでやってきた“伝える”ことの限界も感じていたタイミングに、卓さんと出会った。漆に焦点を当てることで、ものづくりの土壌に対する自分なりのアクションが見つけられたらと思い相談したんです。―

―(堤)「漆に対して私にできることないですか?」って言ってくれましたね。当時ちょうど僕は漆に対して初めの一歩を踏み出した頃でした。遡ると、僕は2010年ぐらいから国内の漆の減少量に漠然とした危機感を持ち始めてて。そこから、国内の産地や漆掻きの職人さんのもとを訪ねたり、リアルな数字を知るうちに、目の前が真っ暗になっていきました。どこも行き詰まっていて、もうだめだ……みたいな。

―(高室)国内漆の流通量が40年前は500トンあったものが、今ではその10分の1も流通していない……と口癖のように嘆いてた。

―(堤)そうそう。人に漆のことを話すと泣きそうになるくらいの絶望感でした。一方で、毎日漆の仕事に向き合うなかで、漆の面白さに体感的に気づいていった頃でもあったんです。その頃に出会ったカメラマンの友人からの励ましもあって、漆のある暮らしを次世代の子ども達につなぐ取り組みとして「うるしのいっぽ」という活動を始めました。その動きがあったから、高室さんにも気づいてもらえたんだと思います。

―(高室)その流れのなかで、不思議なご縁で京北を拠点にすることがトントン拍子に決まって、2019年6月にパースペクティブが始動。

―(堤)細かいことは決まっていないなかのスタートだったけれど、プロジェクトや発信をするにせよ、まずは「漆を植えなきゃ」という思いはあって。工芸の素材を植える瞬間に立ち会う人が増えれば、世界は変わっていくんじゃないかという確信があったから。そんな提案に対して、高室さんは「一緒に植えよう」と言ってくれて。僕の活動は漆を植えることから始まりました。

次回はパースペクティブが実際に漆を植えている森や、おふたりが感じる漆の魅力について伺います。更新をお待ちください。 

 

工藝の森 https://www.forest-of-craft.jp/

ファブビレッジ京北 https://www.fvk.jp/

堤淺吉漆店 https://www.kourin-urushi.com/

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