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TITLE2024.03.15

木と伝統工芸 桶屋 近藤を訪ねる -中編-

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京都の大徳寺近くの工房で、昔ながらの木の桶を手作業で制作する、桶職人の近藤太一さん。近藤さんの仕事は、産地の原木市場へ出向き、木を仕入れるところから始まります。桶作りに使うのは、国産の木。それも、決まった産地のものだけを使います。「木材選びは人任せにできない」と語る近藤さんに、木材へのこだわりや木材選びのポイントについてお聞きします。

■木材は自分の責任

工房の外にも多数の木材が置かれているのを見ました。そもそも、桶にはどのような材が適しているのでしょうか?

―木というのは、1年に1つずつ年輪が増えていくのですが、人間と同じで、若いうちは丸太の中心部の成長が早いので、年輪の幅は広くなり、木理(もくり:木目のこと)が荒くなります。歳をとるごとに成長スピードは遅くなるので、丸太の外側は年輪の幅が狭まり、木理が細かくなる。木理が荒い部分は木の伸び縮みが大きく出るので、桶には中心部の材は使いません。樹齢100年や200年以上の大きな木の、なるべく外側の、木理が細かな部分を使います。また、桶って節がないんですね、ってよく言われるんですが、節を外して使っているんです。節のある場所も、伸び縮みが大きく出ます。

木理が荒かったり、節があると、歪みやすい。これは、正確に継ぎ目を合わせて成型する桶にとっては一大事。慎重に選ぶためにも、自ら産地に足を運ぶことが大切なんですね。

―その通りです。原木市場には、山から切り出してきた丸太がズラーっと並んでいて、それを見ながら購入するんですが、木を買うのは、ギャンブル性が高いんです。樹皮がついているので、中身を確認できるのは端の切り口部分だけ。そこで木理を確認したり、樹皮に隠れた節があるかどうかを推測したり、まっすぐ生えた木なのか、ねじれながら育った木なのか判断したり。

そうした見極めは1度や2度では難しそうです。間違えれば、大きな損害にもなりかねない。人任せにできるものではないことが理解できました。

―やはり最初は難しくて。何度か通ううちに、林業家の方が「あんたんとこ、こういうのが好きなんやな」などと顔を覚えてくれて、次第に、僕向きの材を集めてきてくれるようになりました。

ひとつの桶を作るにも、産地との人間関係が欠かせない。また、それを構築するにはある程度の時間もかかる。

―市場で良い材を手に入れたとしても、すぐには使えません。切り倒したばかりの木には水分だけでなく、樹脂やアクも含まれている。それらが全部抜け切った状態でないと、桶にした時に歪みが大きく出てしまう。ですので、買ってきた木は日光や雨風に当てて、何年も経ってから、ようやく使える状態になります。外側が真っ黒になっているのは、アクが外に出きった印です。

木を仕入れ、乾燥させたり、アクを抜いたり。それらは製材所などに任せることもできますが、全て自分でやられているとは、大変な作業量に思えます。

―僕らが作っているのは桶じゃないですか。歪みが出て、水が漏れたら使い物にならない。その上、水に濡れたり乾いたり、桶は木工品のなかでも特に過酷な使われ方をします。それに耐えられるものにしなければならない。自分が責任を持って作るものなので、木材の準備も人任せにできないというか。そういう思いでやっています。

■木は適材適所。産地にこだわる理由

近藤さんの桶には、奈良県吉野産の杉に、長野県木曽産の椹(さわら)と高野槙(こうやまき)を主に使われています。産地を限定している理由も、材に責任をもつ、という考えにつながりそうです。

―おひつに、寿司桶に、ぐい飲み。そうした口に入るものを多く作っているので、やはり信頼できる国産材を選んでいます。特に吉野産の杉や椹をよく使いますが、それらは昔から食にまつわるものに良いとされてきた材であり、そこにはそれなりの理由があります。

具体的にはどのような点で、桶作りに向いているのでしょうか?

―例えば、吉野というのは酒樽に使う材の産地なんですね。吉野杉には酒を引き立てる香りの良さや、酒の風味を良くする作用があるとされ、古くより酒を入れる桶や樽に使われてきた。ですから吉野では長年、長さや太さだけでなく、枝打ちするかどうか、下草刈りをするかどうかなど、あらゆる点を調整しながら、桶樽に使うことを想定した材が育てられてきたのです。

各産地では、それぞれの用途に沿った材を生産しているのですね。ちなみに、京都の木材で桶を作ることはありますか?

―過去に、お客さんの依頼で、その方が持ち込まれた京都の木材で作ったことはあります。ですが、継続的に制作しているわけではないです。これは、京都の工芸全体に通じることですが、古くより京都ではいろいろな地域の素材を使って、京都の技術や意匠を加えながら、ものづくりが行われてきましたし、今もそれが主流です。作るものに合わせ、適した材を全国から選ぶ、といったやり方が、京都らしさでもある。適材適所の考え方ですね。ただ、僕は長年京都でやっていますし、もともと京都の木材には興味もあるので、今後は機会があればぜひ京都の木材を使ってみたいです。

最終回は、近年力を入れているという小さなアイテムの制作を含め、時代の変化に合わせた近藤さんの動きに着目します。更新をお楽しみに。

桶屋近藤 https://oke-kondo.jimdofree.com/

近藤太一Instagram https://www.instagram.com/kondotaichi?ref=badge

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