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TITLE2024.03.22

木と工芸 工芸ディレクター・山崎伸吾さんに聞く -前編-

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伝統産業が1200年以上続いてきた京都。現在も、市が定める74品目の伝統産業製品に対して、多くの取組が行われています。そんなものづくりの町を拠点に、15年以上、工芸にまつわるさまざまなプロジェクトを行ってきたのが、工芸ディレクター/キュレーターの山崎伸吾さんです。工芸のメディアを運営しながら、工芸にまつわる企画展や展示会を企画運営したり、また職人の育成や海外進出を支援するなど、多様な動きで京都の工芸シーンを切り拓いています。時代の変化を受け、今、伝統産業は厳しい現状に置かれているとも、新しい局面を迎えているとも言えます。山崎さんはどこにその可能性を感じているのでしょう。

京都の伝統工芸に繋がりを

山崎さんは工芸を主軸にさまざまな活動をされていますが、具体的にどんなことをされているのでしょう。

―大きなところでは、2012年から10年間、若手職人を育成・支援する「京都職人工房」を企画運営しました。さまざまな専門家講師による学びのプログラムで、参加した作り手はデザインシンキングや商品開発などの幅広い知識を得たり、商品開発を行いました。2017年にはWEBメディア「KYOTO CRAFTS MAGAZINE」を立ち上げ、工芸にまつわる情報を発信しています。同じ年には工芸の展示即売会「DIALOGUE」を企画運営し、以来、毎年3月に開催しています。加えて、個々の作り手さんの相談に応じて、工房や店舗のリニューアルに伴走したり、ブランディングや商品開発のお手伝いなどもしています。

Photo:Masuhiro Machida

ちょうど先日、「DIALOGUE 2024」が開催されていましたね。

―今年で7年目になりました。ホテル1棟を丸々借り切った展示会で、それぞれの客室が出展ブースになっています。もちろん即売会なので、会場で商品が売れるのは嬉しいのですが、何よりそこで、対話の時間が生まれてほしいと。そんな思いから始まったイベントです。実際に、訪れた人と作り手の対話から、さまざまな展開が生まれているんです。例えば、店舗やバイヤーとの商談が成立したり、作り手同士のコラボレーションが進んでいったり。開催後に、出展者からそういう話が届くのが、一番嬉しいですね。

Photo:Masuhiro Machida

近年では、職人の海外進出を支えるプロジェクト「MTA(Meet Traditional Arts)」にも力を入れられています。

―京都の伝統産業の魅力を世界に届ける活動を長年続けていて、2023年にはその基盤として「LINKED ARTISAN」という一般社団法人を立ち上げ、一層力を入れています。今年(2024年)の1~2月にも、3名の職人と2名の料理人とともにサンディエゴ(アメリカ)を訪ね、初釜をテーマにした茶懐石を、イベントとして開催しました。お正月や茶懐石やお出汁、またその背景にある日本の文化や精神性などについてのレクチャーを聞いていただいた後に、食べていただくという内容でした。決して安い料金設定ではないのですが、最終的に予約はほぼ定員に達しましたし、アンケートでも全体的に満足度は高かったです。

Photo:Shingo Yamasaki

Photo:Shingo Yamasaki

職人と現地に行く。目的としては、プレゼンテーションや企画展の開催になるのでしょうか?

―見え方はそうですが、僕たちとしては、イベントだけをする活動としては捉えていません。それよりも、仲間を増やしに行くという感覚が強いです。というのも、今は仲間作りのフェーズにあると認識しています。海外で活動をする時に、現地のパートナーの存在って、すごく大きいんです。僕らの活動に共感してくれるパートナーであるほど、そこから思いも寄らない広がりが生まれたりもします。
できるだけ多くのパートナーに出会うために、毎回スケジュールには余裕をもたせていて、現地では自由な動きができるようにしています。僕らに興味を持って初めて会いに来てくれる人がいれば、そこから繋がった人に会いに行くことになったり、旅の途中で予定がどんどん変わっていきます。例えば、昨年に行ったフェニックスでは、食のイベントとして開催しましたが、禅という観点から有名なヨガのインストラクターの方と知り合えて、結果的に、佐波理おりんのアイテムの販売に繋がったりしました。

工芸と社会を接続させる

山崎さんの活動は、自由な発想で、工芸の関わりしろをどんどん増やしているように見えます。一方で、伝統産業の衰退はもう何年も前から全国的な課題として挙げられています。京都も同様です。

―生活様式が大きく変わり、かつてのような需要がない。そこに始まる後継者不足や技術の喪失といったさまざまな課題は、今に始まったことではないのですが、やっぱりコロナの影響は大きく、コロナ禍以降は、京都でもどんどん廃業が進んでいます。

プラスチックや化学繊維などの便利で安価なものが普及したことで、例えば桶や着物のようなものが、もはや日用品として使われなくなり、生活自体がもうかつてのものとは違うので、時代に合ったニーズを掘り起こす必要があるということですね。

―そうです。もはや大量消費の時代ではないし、地球環境との共存が世界的なイシューになっています。もともと工芸とは、どんな地域にも、生活のなかに当たり前に存在するものでした。身近な天然素材でできていて、壊れたら誰でも修復が可能で、長く使い続けられる。こうした工芸の本来の要素は、無理やり価値付けなどせずとも、今の僕達の暮らしにも適したものであるはずです。そうした理解を深め、かつ共感を得てもらうためにも、工芸をどう現代社会に接続させていくか? 近年は、どんな活動にせよ、それを考え続けています。

京都の伝統工芸と木材

「木と暮らすデザインKYOTO」は京都の木と暮らしをテーマにしたメディアですが、京都の木工の世界では、他産地の木材を使う作り手さんも多いです。このことを、山崎さんはどう捉えていますか?

―木工に限ったことではなく、京都の工芸全般に言えることなのですが……本来、伝統工芸や伝統産業と言われるものって、その土地で採れる材料があったから生まれた・育まれたものがほとんどなのに対して、京都は違っています。京都は都として栄えたことから、さまざまなものの集積地になってきました。日本全国から良質のものが集まる状態が長年続き、そうした環境下で生まれた伝統産業がたくさんありました。都ですので、献上品として作られるものも多く、その場合はとりわけ最上級のものが求められます。そうした状況のなかで、日本中から良い材料を集めて、もの作りをすることが定番化してきたんです。

―それが今に続く、京都の伝統工芸の特徴になっている、と。

そういう材料でしか作れない工芸が発達した、と言うこともできます。代表的なのは、神社で用いられる神祇工芸にまつわる手法や、調度品に多用されてきた京指物の技術などです。それらは高いクオリティを担保するために、用いる材の種類や地域が定められていることも多く、決まった土地で、しっかりした管理の下、200年や300年かけて育てられた材だけが使われます。そうしたサイクルが何百年も続いてきたなかで、さまざまな工芸が生き残ってきたし、作り手もそこに組み込まれている、と言ってもいいかもしれません。

―現在では、山林整備や資源の見直しなどの観点から、京都でも地域材をものづくりに取り入れていく動きが各所で見られますが、その動きについてはどう考えますか?

歴史的な仕組みと、そうした昨今の動きは、違う階層のこととして捉えています。前者は、今を生きている僕らが解決できるような話ではないように思いますし、かといって、地域の材を使わなければ健康的な山林整備は行われません。そこは、伝統産業とは別の枠組みの中にヒントを見つけていく方が、可能性が広がりやすい気がします。

―伝統産業以外の分野でとは、例えばどのようなことでしょうか?

あくまで一例ですが、グリーンウッドワークといって、切り出したばかりの生木を使う木工のジャンルがあります。一般的には木材は、数年間乾燥させてから使われますが、それでは時間がかかるし、スペースも必要になります。そのハードルを下げるグリーンウッドワークのような動きが増えると、地域の材がより使われやすくなるかもしれないですね。

次回は、山崎さんが近年取り組んだという、福井県の地域産材のプロジェクトについてお聞きします。更新をお楽しみに。

山崎伸吾Instagram  https://www.instagram.com/ymsksng/
山山Instagram https://www.instagram.com/ymym_kyoto/?img_index=1
KYOTO CRAFTS MAGAZINE  https://www.kougeimagazine.com/
Kyoto crafts exhibition DIALOGUE  https://dialoguekyoto.com/

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